2026年10月17日土曜日

パスワードを忘れた自分に、過去の自分が一番ひどい

 ログイン画面の前で、手が止まった。

パスワードが思い出せない。

いや、正確に言うと、思い出せないというより「どれだったっけ」状態だ。候補は三つくらい浮かんでいる。ひとつ目を打つ。違う。ふたつ目を打つ。これも違う。みっつ目、これは自信がある。……違う。

「パスワードが間違っています」

画面は淡々としている。責めてこないのが、かえってつらい。

過去の自分は、なぜか自信満々だった

こういうとき、ふと思う。このパスワードを決めた自分は、いったい何を考えていたんだろう。

登録した日の自分は、きっとこう思っていたはずだ。

「これは絶対に忘れないやつにしよう」

その自信はどこから来たのか。数ヶ月後の自分がこうして画面の前で固まっているなんて、これっぽっちも想像していない顔をしている。

しかもヒントの質問がまたひどい。「初めて飼ったペットの名前は?」と聞かれても、答えを何パターンか登録した記憶があって、どれで答えたか分からない。ひらがなだったのか、ローマ字だったのか、頭だけ大文字にしたのか。

過去の自分は、親切のつもりで何も残してくれていない。

「あとで変えよう」が一番の敵だった

思い返すと、パスワードを決める場面では、いつも急いでいる。

登録を済ませたい。早く中身を見たい。とりあえず入れておけば、あとでちゃんとしたものに変えればいい。そう思って、その場の勢いで決めてしまう。

そして「あとで」は、ほぼ来ない。

その結果、数ヶ月後に「ちゃんとしてない過去の自分」の尻拭いを、「何も覚えていない今の自分」がやることになる。これはもう、完全に時間差のいじめだと思う。

過去の自分は決めただけで逃げ切っていて、今の自分だけが毎回、本人確認メールを待っている。

「パスワードを忘れた方はこちら」を押す、あの小さな敗北感

そして最終的には、あのリンクを押すことになる。

「パスワードをお忘れですか?」

はい、忘れました。はい、そうです。もう認めます。

メールアドレスを入れて、送信ボタンを押す。そこから、メールが届くまでの数十秒がやたら長い。受信箱を何度も更新して、迷惑メールフォルダまで確認して、ようやく届いたリンクを開く。

新しいパスワードを決める画面で、また別の問題が出てくる。

「英大文字、小文字、数字、記号を含む12文字以上」

要求が高い。過去の自分が使っていたような、覚えやすいパスワードは、もう通してもらえない。

「このパスワードは過去に使用されています」

そんなことまで覚えているなら、教えてくれ。どれを使ったのか、そっちが知っているなら、最初から言ってくれ。

それでも、今の自分にできること

結局、過去の自分を責めても、パスワードは戻ってこない。

だから最近は、今の自分が未来の自分に優しくすることにしている。

  • 登録するときに、パスワード管理の仕組みにちゃんと保存する
  • 「あとで変える」をやめて、その場でちゃんとしたものを決める
  • メモを残すなら、パスワードそのものではなく、迷わないための手がかりを残す

地味な話ばかりだけど、これだけで、数ヶ月後の自分の機嫌がだいぶ変わる。

パスワードを忘れる自分は、たぶんこれからもゼロにはならない。でも、忘れた自分を助けられるのは、過去の自分だけでもある。

今日登録するサービスのパスワードは、数ヶ月後の自分への、ささやかな贈り物だと思って決めてみる。

今日の自分が、過去の自分と同じ失敗をしないために。

そして、ログイン画面の前で固まっている誰かが、これを読んで少しだけ笑ってくれたらうれしい。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます

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