押し入れの奥で眠っていた古いノートパソコンを、ふと思い立って起動してみた。
電源ボタンを押すと、ファンが「ブォーン」と重たい音を立てる。画面が映るまで、たっぷり数分。昔はこの待ち時間が普通だったのに、今となっては妙に長く感じる。コーヒーを淹れて戻ってきても、まだ起動中だった。
見つけてしまった「マイドキュメント」
ようやく立ち上がったデスクトップは、アイコンだらけ。整理されていないところに、当時の自分らしさがにじんでいる。
何気なく「マイドキュメント」を開くと、見覚えのないフォルダ名が並んでいた。
「新しいフォルダ(2)」
「無題」
「あとで見る」
「ほんとに最後のやつ_改」
フォルダ名のセンスが、今と変わらなくて少し笑った。
写真フォルダの中の、知らない顔
写真フォルダを開いてみる。サムネイルがゆっくり読み込まれて、一枚ずつ現れる。
友達と行った旅行の写真。ピントのずれた食べ物の写真。なぜか撮ってある空の写真。そして、今より少し若い自分の顔。
髪型も服の趣味も、今とは違う。それでも、その表情はたしかに自分のものだった。カメラに向かって、ちょっと照れくさそうに笑っている。
「この頃の自分は、何を考えていたんだっけ」
そう思いながら、次のファイルを開いた。
書きかけの文章が、ぽつんと残っていた
テキストファイルがいくつか入っていた。日記というほど続いてはいない、書きかけの文章たち。
仕事の愚痴。将来への不安。好きな音楽の話。誰に見せるわけでもない、夜中のメモ。
読み進めるうちに、胸のあたりがじんわりしてきた。文章は拙くて、言葉選びも荒い。でも、悩んでいることは、今の自分とそう変わらなかった。
あの頃の自分も、ちゃんと悩んで、迷って、それでも毎日をやり過ごしていたんだと思う。
過去の自分に、少しだけやさしくなれた
不思議なもので、昔の文章を読んでいると、当時の自分に声をかけたくなる。
「大丈夫、ちゃんと続いてるよ」
そんなことを、画面に向かって言いそうになった。
今の自分は、あの頃の悩みの答えを全部知っているわけじゃない。それでも、あの夜を越えて、ここまで来ている。それだけで、少し誇らしい気持ちになった。
古いパソコンは、小さなタイムカプセル
スマホのクラウドには、写真が自動で保存される時代。でも、古いパソコンの中には、「自分で取り込んで、自分で名前をつけて、自分で保存した」データが残っている。
手間がかかっていた分、その一枚一枚に、当時の気持ちがこもっている気がする。
古いパソコンは、ただの古い機械ではなく、小さなタイムカプセルなのかもしれない。
最後に、ひとつだけ
その夜は、結局2時間ほど、画面を眺めていた。
最後に、大事そうな写真と文章を新しい保存先にコピーして、ファンの音が止まるのを待ってから電源を落とした。
押し入れに戻す前に、パソコンの天板を軽く撫でてみる。
「ありがとう。ちゃんと残しててくれて」
そんなふうに声をかけたくなる夜だった。
もしあなたの家にも、眠っている古いパソコンがあるなら、一度だけ電源を入れてみてほしい。そこには、忘れていた自分が待っているかもしれません。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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